コラム

法律初心者でもわかる!財産分与 vs 遺産分割のポイント

財産分与(ざいさんぶんよ)遺産分割(いさんぶんかつ)は、どちらも「財産を分ける」という点では似ていますが、目的や手続き、対象者などに大きな違いがあります。以下、わかりやすく整理して説明します。

1. 何を分けるのか

1.財産分与

・対象財産:夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産(共有財産や一方名義でも実質的に夫婦で築いた財産)を分ける。

・タイミング:離婚をするとき。離婚成立によって「夫婦共同の財産をそれぞれ清算する」手続き。

・法的根拠:民法第768条など(協議離婚の場合は合意に基づき、調停・審判・訴訟になることもある)。

2.遺産分割

・対象財産:被相続人(亡くなった人)が残したすべての財産(不動産、預貯金、株式、借金などのマイナス財産含む)を分ける。

・タイミング:被相続人が死亡したあと、相続人同士で遺産をどのように分けるかを決めるとき。

・法的根拠:民法第900条以降(相続人間で協議し、合意が成立しなければ家庭裁判所で調停・審判を行う)。

2. 目的と背景の違い

1.財産分与の目的

・離婚に伴う清算として、結婚により夫婦が一体的に築いてきた財産を公平に精算する。

・「離婚後も一方が経済的に著しく不利益を被らないようにする」ため、夫婦の貢献度や収入差、子どもの養育状況などを考慮して分与額を決める。

2.遺産分割の目的

・相続財産を相続人に配分し、遺産関係をきれいに整理する。

・被相続人の最終的な意思(遺言)があれば優先されるが、遺言がない場合や一部相続人が納得しない場合、法定相続分を基準に話し合うか、裁判所の判断を仰ぐ。

3. 対象となる人(主体)の違い

1.財産分与

・当事者は「離婚する夫と妻(嫡出配偶者)」のみ。離婚後は元配偶者間で分与手続きをする。

・第三者(子どもや両親など)は直接の当事者ではないが、扶養義務や親権など別の問題が絡むことはある。

2.遺産分割

・当事者は「法定相続人(配偶者、子ども、父母、兄弟姉妹など)や遺言で指定された受遺者」。

・亡くなった人(被相続人)は当事者にはならず、「相続人同士」が話し合って手続きを進める。

4. 分けるルールや基準の違い

 

5.具体的な例で考えてみる

①財産分与の例

・夫が会社員、妻が専業主婦として20年間暮らしてきた。

・夫の給与で住宅を購入し、預貯金も蓄えた。離婚時、夫が一方的に家を所有していても、住宅のうち夫婦協力で築いた部分や妻が家庭を支えた期間の貢献が考慮され、妻に一定の金銭分与(例:共有持分や現金給付)が認められる。

・「年収格差」「婚姻期間」「家庭内での無償労働の貢献度」などを考慮し、離婚後の生活安定を図る。

➁遺産分割の例

・被相続人Aさんが亡くなった。Aさんは自宅(不動産)、預貯金、株式などを残した。

・相続人は配偶者Bさんと子C・D(計3人)。Aさんに遺言がなければ、原則として配偶者(B)が1/2、子C・Dがそれぞれ1/4ずつという法定相続分が基準。

・しかし「長男Cに自宅を相続させたい」「次男Dには預貯金を多めに渡す」など、相続人同士で合意ができれば、法定割合と異なる分割方法も可能。

・合意が難しければ家庭裁判所の調停・審判で具体的な分割方法を決める。

6. 手続きの流れの違い

1.財産分与の手続き

①離婚協議の中で「財産分与」の話し合いを行う

➁合意ができれば「財産分与協議書」を作成し、離婚届と同時あるいは後日、財産分与を実行する

③合意できない場合は家庭裁判所で「離婚調停」を申し立て、調停で合意できなければ「離婚審判」や「離婚訴訟」へ進む

④財産の名義変更や預金分割などの実行を行い、離婚と同時に清算を完了する

2.遺産分割の手続き

①被相続人の死亡後、相続人はまず被相続人の財産目録作成や借金の有無を調査(相続財産の確定)

➁相続人全員で「遺産分割協議」を行い、分配方法を決める

③協議がまとまれば遺産分割協議書を作成し、各種名義変更(不動産登記、預貯金解約など)を進める

④協議がまとまらない場合は家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立て、調停で合意できなければ「遺産分割審判」や「遺産分割訴訟」に移行する

7. 似ている部分と注意点

◆似ている部分

・いずれも「協議による合意」が最初のステップであり、当事者同士で話し合って決める。

・合意できない場合、家庭裁判所の調停・審判を経て解決を図る。

・財産の名義変更(不動産登記や金融機関の手続き)など、実際の分割方法・実行手続きが必要。

注意点

・財産分与は離婚と連動するため「離婚届を提出する前後」に手続きを済ませる必要がある。一度離婚すると「離婚後に財産分与協議」をやり直すのは困難。

・遺産分割の場合は「相続開始(死亡時)」から原則として10か月以内に分割協議を終えないと、相続税の申告・納付に不都合が生じる(相続税の申告期限が10か月)。相続登記の義務化にも注意。

・遺産分割では「負債(借金)」も含めて清算が行われる。借金が多い場合、相続放棄や限定承認などの制度を利用する可能性がある。

  • 財産分与では「婚姻期間中の貢献度」を争点にしやすく、妻が専業主婦だったか共働きだったか、家事育児の貢献はどう評価されるかなどが協議のポイントとなる。

具体例でのイメージ

1.財産分与:「結婚20年。夫(会社員)と妻(専業主婦)で持ち家・預貯金・自動車を築いた。離婚時、妻は家事育児に専念し資産形成に貢献。夫婦間で分与割合を決め、妻に住宅の持分の一部と預金の分割金を渡す。」

2.遺産分割:「父が亡くなり、母・長女・次女の3人が相続人。父の不動産と預貯金が相続財産。遺言書があれば長女に自宅を相続させる内容だが、預金の分配方法が複数名義のため相続人同士で協議し、最終的に長女が自宅、母と次女で預金を分ける形に合意する。」

まとめ

1.財産分与

・離婚時の「夫婦共同財産の清算」

・対象は婚姻期間中の共有的財産

・当事者は離婚する夫と妻

・合意が基本、協議できなければ家庭裁判所手続きへ

・離婚と一体の手続きで、離婚成立前後に済ませる必要がある

2.遺産分割

・相続開始後の「被相続人の財産(+負債)を相続人で分配」

・対象は被相続人のすべての財産

・当事者は相続人(配偶者・子ども・親・兄弟姉妹など)

・遺言が最優先、遺言がなければ相続人同士の合意が前提

・相続税が課税される場合には、相続開始から10か月以内に相続税申告を含む協議を行う必要がある

以上のように、財産分与は“離婚”が発生したときの夫婦間での財産の清算であり、遺産分割は“相続発生”後に相続人同士で被相続人の財産を分ける手続きです。それぞれの目的や手続き、期限、当事者が異なるため、混同しないよう注意しましょう。

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