悔しい想いから相続・遺言の「勘違い」を無くすと誓った日
~娘のために書いた自筆証書遺言で、娘を守ることができなかった父の話~
2020年3月、無料相談の電話が鳴った。
父を亡くした娘さんからの相談だった。
娘「父が書いてくれた遺言書があります。『法務局で使用できるか、司法書士さんに至急確認してください』と、相談している弁護士さんから言われまして・・・」
私「承知しました。今から事務所に来ることができますか?」
娘「はい、すぐに伺います。」
娘さんが来所され、遺言書に目を通したところ、弁護士さんが至急の確認を促した理由が一瞬で理解できた。
私「うーん、この遺言書では・・・」
娘「相続のときに兄と揉めないよう、父が生前に書いてくれた遺言書なのですが・・・」
私「ここと、ここを見てください。おそらく法務局で問題となる部分です。」
「管轄が〇〇県の法務局ですので、地元の司法書士に聞いてみるのも選択肢の一つですが、時間が
かかってしまうかもしれません。まずは、私から法務局にFAXして確認してみますね。」
私は、〇〇県の△△法務局に電話して事情を説明し、法務局としての見解を求めた。
娘さんには、翌日の回答を待って伝えることになった。
私「ご自分で書かれた遺言書は、残念ながら法務局で使えないことが多いのです。
お父様としては、一生懸命、大切な方のことを想って書いたのだと思います。
ただその反面、〈誰に対し、何をするのか〉を客観的に特定できない内容になってしまうことが
あるのです。」
「ここと、ここをご覧ください」
私は、法務局で問題となりそうな部分を改めて示した。
娘「あぁ、なるほど・・・だから弁護士さんは、司法書士さんに確認してくださいとおっしゃ
ったのですね。」
「父は、小さい頃から私を可愛がってくれました。一方で兄とは折り合いが悪く、兄が父に暴力を
ふるうこともあったりして・・・」
私「そうだったんですね。・・・お兄さんは、あなたに嫉妬していたのかもしれないですね。」
娘「えっ、何故わかるのですか?私もそのことをずっと感じていました。」
私「相続というのは、人間関係の縮図です。その方のお困りごとから、人間関係が鏡のように映し出され
るのです。お兄さん、〇〇〇〇〇とおっしゃっていませんでしたか?」
娘「はい。まさに、そのままの言葉で言われたことがあります。」
私「なぜ私が、会ってもいないお兄さんの言葉がわかるかというと・・・」
そこから5分ほど、人間関係について娘さんとお話しさせていただいた。
私「ご理解いただき、ありがとうございます。目の前の課題は、必ず乗り越えることができます。
一つひとつの課題と向き合っていきましょう。」
翌日の法務局の回答は、「今回の遺言書は、登記では使用できないものであると判断しました」との内容だった。
そのことを娘さんに伝え、再度弁護士さんに相談してみることとなった。
この相談のあと、私の心の奥底からある思いが沸々と湧き上がってきた。
日々の相談に対応しているだけでは、対処療法でしかない。
もっと事前に、「思い込みや勘違い」によって生まれる〈使えない遺言書〉を無くすべきだと。
私の使命が、相談から啓蒙に変わった瞬間であった。
※この事例は、実際の相談内容をデフォルメしてあります。
ご本人からは、「私のように悲しむ方が減るのなら、是非活用してください」との応援コメントをいただいています。
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