コラム

財産分与と遺産分割の違いとは?離婚と相続で混同しやすい「財産を分ける手続き」をわかりやすく解説

「まとまった財産を分ける」という場面に直面したとき、多くの方が混同しやすい言葉に、財産分与(ざいさんぶんよ)遺産分割(いさんぶんかつ)があります。

どちらも、財産を分ける手続きという点では似ています。

しかし、実際には、発生する場面、目的、当事者、期限、相談すべき専門家が大きく異なる、まったく別の法律手続きです。

簡単にいうと、財産分与は離婚に伴う夫婦間の財産の清算であり、遺産分割は人が亡くなった後に相続人同士で遺産を分ける手続きです。

この違いを理解しないまま手続きを進めてしまうと、本来確認すべき権利を見落としたり、必要な期限を過ぎてしまったり、家族間のトラブルが大きくなってしまうことがあります。

本コラムでは、財産分与と遺産分割の違いを、法律初心者の方にもわかりやすく整理します。

特に相続の場面では、遺産分割協議、相続登記、預貯金の解約、不動産の名義変更など、実務上やるべき手続きが多くあります。

「これは離婚の問題なのか、相続の問題なのか」「誰に相談すればよいのか」を判断するための参考にしてください。

 

財産分与と遺産分割の基本的な違い

財産分与と遺産分割は、どちらも「財産を分ける」という点では共通しています。

しかし、何を分けるのか、誰が当事者になるのか、何を目的とするのかが異なります。

まずは、それぞれの基本を確認しておきましょう。

1. 何を分ける手続きなのか

財産分与とは

財産分与とは、離婚する夫婦が、婚姻期間中に協力して築いた財産を分ける手続きです。

たとえば、婚姻中に築いた預貯金、不動産、保険、退職金、株式などが問題になることがあります。

名義が夫または妻の一方だけになっていても、実質的に夫婦の協力によって築いた財産であれば、財産分与の対象として検討されることがあります。

財産分与は、離婚に伴う夫婦間の財産関係の清算です。

そのため、主な当事者は離婚する夫婦です。

遺産分割とは

遺産分割とは、亡くなった人が残した財産を、相続人同士でどのように分けるかを決める手続きです。

対象となる財産には、不動産、預貯金、株式、投資信託、自動車、家財、借入金などがあります。

ただし、借金などのマイナス財産については注意が必要です。

相続人同士の話し合いで「誰が負担するか」を決めることはありますが、その合意だけで、当然に債権者に対する責任まで変更できるわけではありません。

借金が多い場合には、相続放棄や限定承認を含めて、早い段階で判断する必要があります。

遺産分割は、相続が発生した後に、相続人全員で行う手続きです。

2. 発生する原因の違い

財産分与と遺産分割の大きな違いは、発生する原因です。

財産分与は、離婚によって発生します。

夫婦が婚姻中に築いた財産を、離婚にあたって公平に清算するための制度です。

一方、遺産分割は、人が亡くなることによって発生します。

被相続人、つまり亡くなった人の財産を、相続人の間でどのように承継するかを決める手続きです。

つまり、財産分与は「離婚の問題」、遺産分割は「相続の問題」です。

この違いを押さえるだけでも、どの専門家に相談すべきかが見えやすくなります。

3. 目的の違い

財産分与の目的

財産分与の目的は、夫婦が婚姻中に築いた財産を公平に清算することです。

夫婦の一方が外で働き、もう一方が家事や育児を担っていた場合でも、家庭を支える貢献があったと考えられます。

そのため、財産の名義だけで判断するのではなく、婚姻期間、収入、家事育児の分担、財産形成への貢献などを踏まえて検討されます。

また、事案によっては、離婚後の生活保障や慰謝料的な要素が問題になることもあります。

遺産分割の目的

遺産分割の目的は、亡くなった人の財産を相続人に承継させ、相続関係を整理することです。

遺言書がある場合には、原則として遺言の内容が優先されます。

一方、遺言書がない場合や、遺言書に記載されていない財産がある場合には、相続人全員で遺産分割協議を行います。

協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成し、不動産の相続登記、預貯金の解約、株式の名義変更などを進めていきます。

4. 当事者の違い

財産分与の当事者

財産分与の主な当事者は、離婚する夫婦です。

子どもや親は、原則として財産分与そのものの直接の当事者ではありません。

ただし、親権、養育費、婚姻費用、慰謝料など、離婚に関連する別の問題が同時に発生することはあります。

財産分与について争いがある場合や、相手方との交渉が必要な場合には、弁護士への相談が中心になります。

遺産分割の当事者

遺産分割の当事者は、相続人全員です。

相続人には、配偶者、子ども、父母、兄弟姉妹などが含まれる場合があります。

誰が相続人になるかは、家族構成によって大きく変わります。

たとえば、亡くなった人に配偶者と子どもがいる場合は、配偶者と子どもが相続人になります。

一方、子どもがいない夫婦の場合には、配偶者だけでなく、亡くなった人の親、親がすでに亡くなっていれば兄弟姉妹や甥・姪が相続人になることがあります。

この点を誤解していると、「配偶者がすべて相続できると思っていたのに、兄弟姉妹との協議が必要になった」という事態が起こります。

子どもがいない夫婦の相続については、別の記事でも詳しく解説しています。

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具体例で見る財産分与と遺産分割の違い

ここからは、具体的な事例でイメージを整理してみましょう。

財産分与の例

夫が会社員、妻が専業主婦として20年間生活してきたケースを考えます。

婚姻中、夫の給与で住宅を購入し、預貯金も形成してきました。

住宅や預貯金の名義が夫になっていたとしても、その財産が夫婦の協力によって築かれたものであれば、離婚時には財産分与の対象として検討されます。

妻が直接収入を得ていなかったとしても、家事や育児によって家庭を支えてきた貢献が考慮されることがあります。

このように、財産分与では、婚姻中に築かれた財産をどのように公平に清算するかが問題になります。

遺産分割の例

Aさんが亡くなり、自宅不動産、預貯金、株式を残したケースを考えます。

相続人は、配偶者Bさんと子どもCさん、Dさんの3人です。

Aさんに遺言書がなければ、法定相続分は、配偶者Bさんが2分の1、子どもCさんとDさんがそれぞれ4分の1ずつとなります。

ただし、必ず法定相続分どおりに分けなければならないわけではありません。

相続人全員が合意すれば、たとえば「配偶者Bさんが自宅を取得し、子どもCさんとDさんは預貯金を取得する」といった分け方も可能です。

また、不動産を誰か一人が取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う方法もあります。

協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停を利用し、調停でもまとまらなければ審判で判断されます。

なお、遺言の有効性や遺産の範囲など、前提となる問題について争いがある場合には、別途訴訟が必要になることもあります。

手続きの流れの違い

財産分与と遺産分割では、手続きの流れも異なります。

財産分与の一般的な流れ

財産分与では、まず離婚協議の中で、財産の内容や分け方を話し合います。

合意ができれば、財産分与の内容を離婚協議書などにまとめます。

不動産がある場合には、名義変更や住宅ローンの整理なども必要になります。

合意ができない場合には、家庭裁判所の離婚調停などを利用して解決を図ります。

財産分与は、離婚後でも請求できる場合がありますが、法律上の期間制限があります。

また、時間が経つほど、相手方の財産状況を把握しにくくなったり、資料の収集が難しくなったりします。

そのため、財産分与について不安がある場合は、離婚届を提出する前に、弁護士などの専門家へ相談しておくことが大切です。

遺産分割の一般的な流れ

遺産分割では、まず相続人を確定し、亡くなった人の財産を調査します。

不動産、預貯金、株式、保険、借入金などを確認し、相続財産の全体像を把握します。

そのうえで、相続人全員で遺産分割協議を行います。

協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成します。

その後、不動産の相続登記、預貯金の解約、株式の名義変更など、具体的な手続きを進めます。

協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。

調停でも合意できない場合には、審判によって分割方法が判断されます。

財産分与と遺産分割の共通点

財産分与と遺産分割には、共通点もあります。

どちらも、まずは当事者同士の話し合いによる合意を目指します。

合意ができれば、内容を書面にまとめ、名義変更や金銭の支払いなどを実行します。

一方で、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の手続きを利用することになります。

また、不動産が関係する場合には、登記手続きが必要になる点も共通しています。

ただし、共通点があるからといって、同じ手続きとして扱うことはできません。

財産分与は離婚に伴う夫婦間の清算であり、遺産分割は相続人同士による遺産の承継手続きです。

この違いを理解しておくことが重要です。

 

財産分与で注意すべきポイント

財産分与については、次の点に注意が必要です。

離婚後の請求には期間制限がある

財産分与は、離婚後でも請求できる場合があります。

ただし、法律上の期間制限があります。

現在は、原則として離婚の時から5年以内に家庭裁判所へ請求する必要があります。

なお、改正前に離婚したケースでは従前の期間が問題になることもあるため、具体的なケースでは個別確認が必要です。

財産の把握が重要

財産分与では、夫婦が婚姻中に築いた財産を把握することが重要です。

預貯金、不動産、保険、株式、退職金、住宅ローンなど、対象となり得る財産や負債を整理する必要があります。

相手方の財産内容が分からないまま離婚してしまうと、後から確認することが難しくなる場合があります。

そのため、離婚を検討している段階で、資料を整理し、必要に応じて弁護士に相談することが大切です。

退職金が問題になることもある

すでに支払われた退職金だけでなく、近い将来支給される可能性が高い退職金が問題になることもあります。

特に、婚姻期間中の勤務によって形成された部分については、財産分与の対象として検討される場合があります。

ただし、退職金の扱いは、勤務先、支給時期、退職の確実性、婚姻期間などによって判断が分かれます。

安易に判断せず、専門家に確認することが大切です。

 

遺産分割で注意すべきポイント

相続の場面では、財産分与とは異なる注意点があります。

相続人全員の合意が必要

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。

一部の相続人を除いて作成した遺産分割協議書は、原則として有効な協議書とはいえません。

戸籍を調査して、誰が相続人になるのかを正確に確認することが重要です。

特に、再婚、前妻・前夫との間の子ども、養子縁組、兄弟姉妹相続、甥・姪が関係する相続では、相続人の確定に注意が必要です。

相続税の申告期限は10か月

遺産分割協議そのものに、一律の期限があるわけではありません。

しかし、相続税の申告・納付が必要な場合には、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告・納付を行う必要があります。

遺産分割がまとまっていないからといって、相続税の申告期限が延びるわけではありません。

未分割のまま申告する場合には、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などに影響が出ることがあります。

相続税が発生する可能性がある場合には、早い段階で税理士と連携しながら進めることが大切です。

相続登記の義務化に注意

相続財産に不動産がある場合には、相続登記が必要です。

現在は、相続により不動産を取得したことを知った日から原則3年以内に、相続登記を申請する必要があります。

正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

相続登記を放置していると、次の相続が発生し、関係する相続人が増えてしまうことがあります。

そうなると、必要な戸籍の量が増え、連絡を取るべき親族も増え、遺産分割協議がさらに難しくなります。

不動産がある相続では、できるだけ早めに名義変更の準備を進めることが大切です。

借金がある場合は相続放棄の期限にも注意

亡くなった人に借金が多い場合には、相続放棄を検討することがあります。

相続放棄は、原則として、自己のために相続があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。

預貯金を使ったり、不動産を処分したりすると、相続を承認したと判断される可能性もあります。

借金があるかもしれない場合には、遺産分割協議を進める前に、相続放棄や限定承認の要否を確認することが重要です。

寄与分と特別受益による不公平感

遺産分割では、単純に法定相続分どおりに分ければ解決するとは限りません。

たとえば、長年親の介護をしてきた相続人がいる場合、「自分の貢献を考慮してほしい」と考えることがあります。

このような場合には、寄与分が問題になることがあります。

一方で、特定の相続人だけが、生前に住宅資金や事業資金などの大きな援助を受けていた場合には、特別受益が問題になることがあります。

寄与分や特別受益は、相続人間の感情的な対立につながりやすい部分です。

事実関係や資料を整理しながら、冷静に協議する必要があります。

不動産がある場合の分け方

相続財産の多くが不動産である場合、現金のように簡単に分けることができません。

代表的な分け方には、次のような方法があります。

現物分割

不動産や預貯金などを、それぞれ特定の相続人が取得する方法です。

たとえば、長男が自宅を取得し、長女が預貯金を取得するようなケースです。

換価分割

不動産を売却して現金化し、その売却代金を相続人で分ける方法です。

相続人全員が不動産を利用しない場合や、現金で公平に分けたい場合に検討されます。

代償分割

特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人へ代償金を支払う方法です。

たとえば、長男が実家を相続し、他の相続人に一定の金銭を支払うケースです。

実家を残したい場合には有効な方法ですが、代償金を支払う資金が必要になります。

また、代償分割を行う場合には、遺産分割協議書の書き方にも注意が必要です。

よくある質問

Q. 離婚届を出した後でも財産分与の請求はできますか?

A. 離婚後でも財産分与を請求できる場合があります。

ただし、法律上の期間制限があります。

現在は、原則として離婚の時から5年以内に家庭裁判所へ請求する必要があります。

ただし、改正前に離婚したケースでは従前の期間が問題になることもあるため、具体的な事情に応じて確認が必要です。

また、時間が経つほど、相手方の財産資料を集めにくくなることがあります。

離婚に伴う財産分与で争いがある場合には、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

Q. 遺産分割に期限はありますか?

A. 遺産分割協議そのものに、一律の期限があるわけではありません。

しかし、相続税の申告・納付期限は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。

また、不動産を相続した場合には、相続登記の申請義務があります。

相続によって不動産を取得したことを知った日から原則3年以内に相続登記を申請する必要があります。

そのため、遺産分割協議を長期間放置することはおすすめできません。

Q. 相続人のうち一人が話し合いに応じない場合はどうなりますか?

A. 相続人全員の合意ができない場合、遺産分割協議は成立しません。

その場合には、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することになります。

調停でもまとまらない場合には、審判によって分割方法が判断されます。

ただし、いきなり裁判所に進める前に、相続人関係、財産内容、過去の贈与、介護負担、不動産の評価などを整理しておくことが大切です。

Q. 財産分与と遺産分割は、同じ専門家に相談すればよいですか?

A. 内容によって相談先が異なります。

離婚に伴う財産分与で、相手方との交渉や争いがある場合には、弁護士への相談が中心になります。

一方で、相続発生後の遺産分割協議書作成、相続登記、不動産の名義変更、預貯金解約、遺産整理については、司法書士が実務面からサポートできる分野です。

また、相続税が関係する場合には、税理士との連携も必要になります。

 

まとめ:財産分与は離婚、遺産分割は相続の手続き

財産分与と遺産分割は、どちらも財産を分ける手続きですが、内容は大きく異なります。

財産分与は、離婚に伴って夫婦間の財産を清算する手続きです。

一方、遺産分割は、相続発生後に相続人同士で亡くなった人の財産を分ける手続きです。

発生する原因、当事者、目的、期限、相談すべき専門家が異なるため、混同しないことが大切です。

特に相続の場面では、相続人の確定、遺産分割協議書の作成、相続登記、預貯金解約、相続税の確認など、早めに整理すべきことが多くあります。

「親が亡くなったが、何から始めればよいかわからない」

「相続人同士で遺産の分け方が決まらない」

「実家の名義変更をしないまま放置している」

「預貯金や不動産の相続手続きをまとめて相談したい」

このようなお悩みがある方は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

なお、当事務所では、離婚に伴う財産分与そのものの代理交渉は取り扱っておりません。

一方で、相続発生後の遺産分割協議、相続登記、預貯金解約、不動産の名義変更、遺産整理については、司法書士として実務面からサポートしています。

名波司法書士事務所では、相続に関するご相談をお受けしています。

相続手続きで何から始めればよいかわからない方、相続人同士の話し合いに不安がある方、実家や不動産の名義変更を進めたい方は、まずはお気軽にご相談ください。

 

 

 

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