コラム

遺言書だけでは認知症対策にならない理由

遺言書だけでは認知症対策にならない理由

遺言書は大切。でも、それだけでは足りないことがあります

相続対策というと、多くの方がまず思い浮かべるのが「遺言書」です。

「遺言書を書いておけば、家族が困らない」
「誰に何を渡すか決めておけば安心」
「公正証書遺言を作れば、相続対策は終わり」

そう考える方も少なくありません。

もちろん、遺言書はとても大切です。

誰にどの財産を引き継がせるのかを明確にしておくことで、亡くなった後の家族の負担や争いを減らせる場合があります。

しかし、ここで注意していただきたいことがあります。

遺言書は、認知症になった後の財産管理対策にはなりません。

なぜなら、遺言書は基本的に、亡くなった後に効力を発揮するものだからです。

認知症になった後、生きている間に必要となる預貯金の管理、不動産の売却、介護費用の支払いなどは、遺言書だけでは対応できないことがあります。


この記事のポイント

遺言書は、亡くなった後に財産を誰へ引き継ぐかを決めるための大切な文書です。

しかし、認知症になった後の預貯金管理、不動産売却、介護費用の支払いなど、生きている間の財産管理には対応できません。

認知症対策としては、任意後見契約、財産管理契約、家族信託など、別の準備が必要になる場合があります。

つまり、安心できる相続対策には、
亡くなった後の遺言書

生きている間の認知症対策
の両方を考えることが大切です。


遺言書でできること

遺言書でできる代表的なことは、亡くなった後の財産の承継を決めることです。

たとえば、

  • 自宅を長男に相続させる
  • 預貯金を長女に相続させる
  • 妻にすべての財産を相続させる
  • お世話になった人に財産を遺贈する
  • 遺言執行者を指定する

といった内容です。

遺言書があることで、遺産分割協議をしなくても手続きできる場合があります。

また、誰に何を渡したいのかが明確になるため、残された家族の迷いや争いを減らせる可能性があります。

特に、不動産がある場合や、相続人同士の関係に不安がある場合、子どものいない夫婦、再婚家庭などでは、遺言書が重要になることがあります。


遺言書でできないこと

一方で、遺言書では対応できないこともあります。

それが、生きている間の財産管理です。

たとえば、親が認知症になった後に、次のようなことが起こることがあります。

  • 預貯金を引き出せない
  • 定期預金を解約できない
  • 実家を売却できない
  • 賃貸不動産を管理できない
  • 介護施設の入居費用を準備できない
  • 空き家になった家を処分できない
  • 株式や投資信託の手続きができない

遺言書に「自宅は長男へ」と書いてあっても、それは原則として亡くなった後の話です。

認知症になった後、生きている間に自宅を売却して介護費用に充てたい場合、遺言書だけでは対応できません。

ここが、遺言書と認知症対策の大きな違いです。


認知症になると、財産管理が難しくなることがあります

認知症などにより判断能力が低下すると、ご本人が契約や重要な財産処分をすることが難しくなります。

たとえば、不動産を売却するには、売買契約を結ぶ必要があります。

預貯金の解約や大きな金額の引き出しにも、ご本人の意思確認が必要になることがあります。

しかし、判断能力が低下していると、金融機関や不動産取引の場面で手続きが進まないことがあります。

その結果、

「親の介護費用に使いたいのに、親の預金を動かせない」
「施設費用のために実家を売りたいのに、売却できない」
「空き家になった実家を管理できず、家族が困っている」

という事態が起こることがあります。

これは、遺言書を書いていても起こり得る問題です。


遺言書は「亡くなった後」の対策です

遺言書は、原則として、遺言者が亡くなった後に効力を発揮します。

つまり、遺言書は、亡くなった後の財産の行き先を決めるためのものです。

一方、認知症対策は、生きている間の財産管理をどうするかという問題です。

この2つは、似ているようで役割が違います。

遺言書

亡くなった後、誰に財産を引き継がせるかを決める。

認知症対策

生きている間、判断能力が低下した後に、誰がどのように財産を管理するかを決める。

この違いを理解していないと、
「遺言書を書いたから安心」
と思っていたのに、認知症になった後に家族が困ることがあります。


認知症対策として考えられる方法

認知症対策としては、ご本人が元気なうちに、次のような方法を検討することがあります。

1. 任意後見契約

任意後見契約は、ご本人が十分な判断能力を有しているうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、誰に何を任せるかを公正証書で定めておく契約です。

本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見人が契約で定められた事務を本人に代わって行います。

財産管理や生活・介護に関する契約手続きなどを、信頼できる人に任せたい場合に検討されます。

2. 財産管理契約

財産管理契約は、ご本人が判断能力を有している段階から、預貯金の管理、支払い、各種手続きなどを信頼できる人に任せる契約です。

任意後見契約と組み合わせて、判断能力があるうちは財産管理契約、判断能力が低下した後は任意後見契約という形で備えることがあります。

3. 家族信託

家族信託は、ご本人の財産を信頼できる家族に託し、その財産の管理や処分を任せる仕組みです。

たとえば、実家を将来売却して介護費用に充てたい場合や、賃貸不動産の管理を継続したい場合に検討されることがあります。

ただし、家族信託は万能ではありません。

財産の種類、家族関係、税務、将来の管理体制などを慎重に検討する必要があります。


遺言書と認知症対策はセットで考える

相続対策では、次の2つを分けて考えることが大切です。

1. 亡くなった後のこと

誰に何を引き継がせるのか。
相続人同士で争いが起きないか。
不動産を共有にしてよいのか。
遺言執行者を指定する必要があるか。

これは、主に遺言書で考える領域です。

2. 生きている間のこと

認知症になった後、誰が預貯金を管理するのか。
介護費用はどう支払うのか。
実家を売却できるようにしておくのか。
賃貸不動産の管理を誰に任せるのか。

これは、任意後見契約、財産管理契約、家族信託などで考える領域です。

どちらか一方だけでは、不十分な場合があります。


よくある誤解

誤解1

遺言書があれば、親の預金を使える

遺言書があっても、親が生きている間に、子どもが自由に親の預金を使えるわけではありません。

遺言書は、原則として亡くなった後の財産承継を決める文書です。

認知症になった後の預貯金管理には、別の準備が必要です。

誤解2

遺言書があれば、実家を売却できる

遺言書に「自宅は長男へ」と書いてあっても、親が生きている間に実家を売却できるとは限りません。

認知症になった後に実家を売却するには、売却権限や本人の判断能力の問題が出てきます。

誤解3

公正証書遺言なら認知症対策もできている

公正証書遺言は、遺言書としての信頼性が高い方法です。

しかし、公正証書遺言であっても、認知症になった後の生前の財産管理まで解決できるわけではありません。

必要に応じて、任意後見契約や家族信託などを別に検討する必要があります。


不動産がある方は特に注意が必要です

不動産がある方は、遺言書と認知症対策をセットで考える必要性が高くなります。

なぜなら、不動産は預貯金と違い、簡単に分けることも動かすこともできないからです。

たとえば、

  • 実家を誰が相続するのか
  • 実家を売却して介護費用に充てる可能性があるのか
  • 空き家になった場合に誰が管理するのか
  • 共有名義にしてよいのか
  • 賃貸不動産を誰が管理するのか

こうした点を整理しておかないと、認知症になった後や相続発生後に、家族が困ることがあります。

遺言書で「亡くなった後の行き先」を決める。
認知症対策で「生きている間の管理方法」を決める。

この両方が必要になる場合があります。


親が元気な今だからできること

認知症対策は、親が認知症になってからでは遅いことがあります。

任意後見契約も、家族信託も、財産管理契約も、基本的にはご本人に十分な判断能力があるうちに検討する必要があります。

「まだ元気だから大丈夫」
と思っているうちに、実は準備できる大切な時期が過ぎてしまうことがあります。

大切なのは、親が元気な今、次のことを話し合っておくことです。

  • 将来、誰が財産管理を手伝うのか
  • 介護費用はどの財産から出すのか
  • 実家を売却する可能性があるのか
  • 亡くなった後、誰に何を引き継がせたいのか
  • 家族の中で負担が偏らないようにするにはどうするか

この話し合いは、簡単ではありません。

だからこそ、専門家が間に入り、制度と家族関係の両方を整理することが大切です。


名波司法書士事務所のW対策

名波司法書士事務所では、相続対策を
亡くなった後の相続対策
だけでなく、
生きている間の認知症対策
とあわせて考えることを大切にしています。

これを、当事務所では
認知症対策と相続対策のW対策
としてお伝えしています。

遺言書は、亡くなった後の財産承継を考えるために重要です。

一方で、任意後見契約、財産管理契約、家族信託などは、認知症になった後の生前の財産管理を考えるために重要です。

どの制度が必要かは、ご家族の状況、財産の内容、親御さんの希望、介護の見通しによって変わります。

大切なのは、制度を先に決めることではありません。

まず、ご家族の状況を整理し、何に困りそうかを見える化することです。


こんな方は一度ご相談ください

次のような方は、遺言書だけでなく、認知症対策も含めて考えることをおすすめします。

  • 親が高齢になってきた
  • 親の物忘れが気になり始めた
  • 親名義の不動産がある
  • 実家を将来売却する可能性がある
  • 介護施設の費用を親の財産から出したい
  • 兄弟姉妹の間で介護負担に差がある
  • 親の預貯金管理が心配
  • 遺言書を作るべきか迷っている
  • 任意後見や家族信託の違いが分からない
  • 何から始めればよいか分からない

まとめ

遺言書は、相続対策としてとても大切です。

しかし、遺言書だけでは、認知症になった後の財産管理対策にはなりません。

遺言書は、亡くなった後のための文書です。

一方で、認知症対策は、生きている間に、判断能力が低下した後の財産管理をどうするかという問題です。

この2つを分けて考えることが大切です。

親が元気な今だからこそ、できる準備があります。

遺言書、任意後見契約、財産管理契約、家族信託などを、家族関係や財産の内容に合わせて整理することで、将来の不安を減らすことができます。

名波司法書士事務所では、お客様の法的・財務的課題を察知し、予防し、必要なときには具体的な解決まで伴走することを大切にしています。

遺言書だけで足りるのか。
認知症対策も必要なのか。
自分の家族の場合、何から始めればよいのか。

不安がある方は、まず一度ご相談ください。

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