コラム

デジタル遺言が始まっても、相続対策は自動化されません

デジタル遺言が始まっても、相続対策は自動化されません

遺言と認知症対策を今から見直すべき理由

「デジタル遺言」という言葉を聞いて、これからはスマートフォンやパソコンで簡単に遺言を作れるようになる、と思われた方もいるかもしれません。

たしかに、今回の民法改正により、パソコンやスマートフォンなどで作成した遺言を法務局で保管する新しい制度が始まることになります。

これまでの自筆証書遺言は、原則として本文をすべて自分で手書きする必要がありました。

高齢の方にとっては、長い文章を手書きすること自体が大きな負担になることもあります。

その意味で、デジタル遺言の制度は、遺言を作成するハードルを下げる可能性があります。

しかし、ここで注意しなければならないことがあります。

デジタル遺言は、単にスマートフォンやパソコンに遺言を書いて保存しておけば有効になる制度ではありません。

また、デジタルで作れるようになったからといって、相続対策そのものが自動的に解決するわけでもありません。

遺言で本当に大切なのは、作成方法ではなく、その内容です。

誰に、何を、どのような理由で遺すのか。

不動産をどのように承継させるのか。

相続人同士の関係に配慮できているのか。

認知症になった場合の財産管理はどうするのか。

これらを整理しないまま遺言を作ってしまうと、せっかくの遺言が、かえって家族の争いのきっかけになることもあります。

この記事では、デジタル遺言の制度をきっかけに、遺言と認知症対策をどのように考えればよいのかを整理します。


デジタル遺言とは何か

報道では「デジタル遺言」と表現されていますが、制度としては、法務局で保管する新しい方式の遺言が創設されるものです。

これにより、パソコンやスマートフォンなどを使って作成した遺言を、一定の手続きにより法務局で保管することが想定されています。

従来の自筆証書遺言では、本文を自分で手書きすることが原則でした。

そのため、文章が長くなる場合や、不動産が複数ある場合、財産内容が複雑な場合には、作成の負担が大きくなりがちでした。

デジタル遺言の制度が始まれば、手書きの負担は軽くなる可能性があります。

また、法務局で保管されることにより、遺言書の紛失、改ざん、発見されないといったリスクを減らすことも期待されます。

ただし、ここで誤解してはいけません。

デジタル遺言は、スマートフォンのメモ帳に遺言を書いておけばよいという制度ではありません。

パソコンで作った文書を自宅に保存しておくだけでも足りません。

法務局での本人確認、意思確認、保管といった手続きが前提になります。

つまり、デジタル遺言は「自由にデータを残せば有効になる制度」ではなく、「法務局の関与を前提に、遺言作成の負担を軽くする制度」と考える必要があります。


遺言は作りやすくなるが、内容が簡単になるわけではない

デジタル遺言によって、遺言を作成する入口は広がるかもしれません。

しかし、遺言の内容を考える難しさは、これまでと変わりません。

たとえば、次のような問題は、デジタル遺言になっても残ります。

まず、誰が相続人になるのかを正確に確認する必要があります。

子どもがいる場合、子どもがいない場合、親が存命の場合、兄弟姉妹が相続人になる場合など、家族構成によって相続人は変わります。

特に、子どもがいないご夫婦の場合、配偶者だけが相続人になるとは限りません。

亡くなった方の親がすでに他界していれば、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になることがあります。

このようなケースでは、遺言がないと、残された配偶者が普段あまり交流のない親族と遺産分割協議をしなければならないこともあります。

次に、不動産の記載にも注意が必要です。

実家や土地を遺言に書く場合、普段使っている住所だけでは、相続登記の場面で不十分になることがあります。

登記上の所在、地番、家屋番号などを正確に確認しておく必要があります。

また、遺留分への配慮も大切です。

特定の相続人に多くの財産を遺す内容にした場合、他の相続人との間で不満が生じることがあります。

法律上の権利だけでなく、家族の感情面にも配慮しなければ、遺言があっても争いを防げないことがあります。

つまり、遺言は「作れたか」ではなく、「相続の場面で実際に使えるか」が大切です。

デジタル遺言になっても、この本質は変わりません。


デジタル遺言では解決できない認知症の問題

もう一つ大切なのは、遺言と認知症対策は別の問題だということです。

遺言は、亡くなった後に財産を誰に承継させるかを決める制度です。

一方で、認知症対策は、生きている間に財産をどのように管理するかという問題です。

たとえば、親が認知症になった後に、次のような問題が起こることがあります。

親の預金を引き出せない。

施設費用の支払いに困る。

親名義の実家を売却できない。

空き家になった不動産を管理できない。

介護をしている子どもと、他の兄弟姉妹との間で不公平感が生じる。

これらは、遺言だけでは解決できません。

なぜなら、遺言はあくまで亡くなった後に効力が生じるものだからです。

たとえ立派な遺言を作っていても、認知症になった後の預金管理や不動産売却には対応できないのです。

そのため、相続対策を考えるときには、遺言だけでなく、認知症対策も一緒に考える必要があります。

任意後見契約、財産管理契約、家族信託など、生前の財産管理を支える制度も含めて検討することが大切です。


デジタル遺言を待つべきか、今から動くべきか

デジタル遺言の法律が成立したと聞くと、「それなら制度が始まるまで待った方がよいのでは」と思う方もいるかもしれません。

しかし、すべての方が制度開始を待てばよいわけではありません。

特に、次のような方は、今の制度でできる対策を早めに確認しておくことをおすすめします。

子どもがいないご夫婦。

再婚されている方。

不動産をお持ちの方。

相続人同士の関係に不安がある方。

親の判断能力に不安が出てきた方。

親の預金管理や実家の売却が心配な方。

介護をしている子どもと、他の兄弟姉妹との関係が気になる方。

このような場合、問題は「どの方式で遺言を書くか」だけではありません。

そもそも遺言が必要なのか。

遺言だけで足りるのか。

認知症対策も必要なのか。

家族にどのように話を切り出すべきか。

誰を遺言執行者にするのか。

不動産を共有にしてよいのか。

こうした点を先に整理しておくことが重要です。

制度が便利になるのを待っている間に、本人の判断能力が低下してしまえば、遺言を作ること自体が難しくなる場合もあります。

デジタル遺言の制度を待つかどうかよりも、まずは「わが家では何が問題になりそうか」を確認しておくことが大切です。


遺言と認知症対策はセットで考える

相続対策というと、多くの方は「遺言を書けばよい」と考えがちです。

もちろん、遺言はとても重要です。

特に、子どもがいないご夫婦、不動産がある方、相続人同士の関係に不安がある方にとって、遺言は大きな安心材料になります。

しかし、遺言だけでは足りない場面もあります。

たとえば、親が認知症になり、預金の管理ができなくなった場合。

施設に入るために実家を売却したい場合。

介護費用を親の財産から支払いたい場合。

このような生前の問題には、遺言だけでは対応できません。

だからこそ、私は、相続対策と認知症対策を一体で考えることが大切だと考えています。

亡くなった後の財産承継を考えるのが遺言。

生きている間の財産管理を考えるのが認知症対策。

この二つを分けて整理することで、家族が困る場面を減らすことができます。


個別相談で整理できること

名波司法書士事務所の個別相談では、いきなり遺言書の文案を作るのではなく、まずご家族の状況を丁寧に整理します。

たとえば、次のような点を確認します。

誰が相続人になるのか。

家族関係に不安はないか。

介護をしている人は誰か。

財産にはどのようなものがあるか。

不動産は誰が引き継ぐのがよいか。

預貯金や保険の受取人はどうなっているか。

本人は誰に何を遺したいと考えているか。

認知症になった場合の財産管理に不安はないか。

遺言、任意後見、財産管理契約、家族信託など、どの制度が必要か。

大切なのは、制度を先に選ぶことではありません。

まず、家族関係、財産内容、将来の不安を整理することです。

そのうえで、遺言で対応するのか、任意後見契約を考えるのか、財産管理契約や家族信託も検討するのかを判断します。

デジタル遺言の制度が始まっても、この整理は欠かせません。

むしろ、遺言を作る入口が広がるからこそ、内容の設計はこれまで以上に大切になります。


まとめ

デジタル遺言をきっかけに、今できる対策を見直しましょう

デジタル遺言は、遺言を作りやすくする便利な制度です。

手書きの負担が軽くなり、法務局で保管されることで、遺言の紛失や発見されないリスクを減らすことも期待できます。

しかし、相続で本当に大切なのは、遺言の作成方法だけではありません。

誰に何を遺すのか。

なぜそのように遺したいのか。

不動産をどう承継させるのか。

相続人同士の関係に配慮できているか。

認知症になった場合の財産管理はどうするのか。

これらを整理しないまま遺言を作ってしまうと、せっかくの遺言が家族の争いの原因になることもあります。

デジタル遺言の制度が始まる前に、まずはご自身やご家族にとって必要な対策を整理してみませんか。

遺言は「書けたか」ではなく、「使えるか」が大切です。

そして、相続対策は、亡くなった後だけでなく、生きている間の安心も含めて考える必要があります。

名波司法書士事務所では、遺言と認知症対策を一体で考える「W対策」の視点から、ご家族の状況に合った進め方を一緒に整理しています。


個別相談のご案内

デジタル遺言の制度が始まっても、「誰に何を遺すか」「家族が困らない内容になっているか」「認知症になった場合の財産管理をどうするか」は、ご家庭ごとに異なります。

特に、次のような方は、早めのご相談をおすすめします。

子どもがいないご夫婦。

再婚されている方。

実家や不動産をお持ちの方。

相続人同士の関係に不安がある方。

親の判断能力に不安が出てきた方。

親の預金管理や実家の売却が心配な方。

遺言を作るべきか、認知症対策も必要なのか、まずは一緒に整理してみませんか。

遺言・認知症対策の個別相談はこちら

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