家族信託と遺言はどっちが必要?認知症対策との役割分担を司法書士が整理

「家族信託と遺言、どちらを作ればいいのですか」
——生前対策のご相談で急増している質問です。
結論を先に言えば、両者は比較して選ぶものではなく、カバーする時期が違う別の道具です。
違いと使い分けを整理します。
根本的な違い:効力が始まる時期
遺言書は、亡くなった瞬間から効力を持ちます。
裏を返せば、生きている間には何の力もありません。
家族信託は、契約した時から効力を持ちます。
財産の管理を信頼できる家族(受託者)に託し、本人が元気なうちから、そして認知症になった後も、財産の管理・処分を続けられる仕組みです。
この違いが決定的な意味を持つのが認知症です。
認知症対策に遺言は無力
認知症で判断能力が失われると、預金の解約も自宅の売却もできなくなります(資産凍結)。
遺言書は死後にしか働かないため、生前の資産凍結には一切対処できません。
「介護費用のために実家を売りたいのに、親の判断能力がなく売れない」
——この事態を防げるのは、家族信託(または任意後見・成年後見)であって、遺言ではありません。
| 場面 | 遺言書 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 認知症後の預金管理・不動産売却 | × | ◎ |
| 死後の財産の行き先指定 | ◎ | ◎(信託財産のみ) |
| 二次相続以降の承継先指定 | ×(自分の相続のみ) | ◎(受益者連続型) |
| 費用 | 数千円〜数万円 | 数十万円〜(設計による) |
| 対象財産 | 全財産に書ける | 信託した財産のみ |
家族信託にしかできないこと:二次相続の指定
遺言で指定できるのは自分の相続までです。
「自宅は妻に、妻が亡くなったら長男に」という二段階目の指定は遺言ではできません。
(妻が受け取った財産の行き先は妻の遺言次第になります)。
家族信託の「受益者連続型」なら、この二次以降の承継先まで契約で決められます。
先祖代々の土地を直系に残したい場合などに強力です。
遺言にしかできないこと・遺言が向くこと
一方、家族信託は信託した財産にしか及びません。
信託に入れなかった預金や、契約後に増えた財産の行き先は決まらないため、信託を組んだ人ほど「その他一切の財産」を受け止める遺言が必要になります。
また、財産構成がシンプルで認知症リスクへの備えが別にある(家族が近くにいる、任意後見を組んだ等)なら、数十万円かけて信託を組むより遺言で十分なことも多いのが実情です。
使い分けの目安
- 死後の行き先だけ決めたい → 遺言
- 認知症後の管理・処分に備えたい → 家族信託(または任意後見)
- 二次相続まで指定したい/収益不動産・自社株の管理を引き継ぎたい → 家族信託+遺言
- 障害のあるお子さまの生活を長期に支えたい → 信託・成年後見・遺言の組み合わせ(詳細記事)
実務では「家族信託+補完する遺言」のセットが最も多い設計です。
まとめ
遺言は「死後」、家族信託は「生前から死後まで」。認知症による資産凍結が心配なら信託を、財産の行き先だけなら遺言を、両方の不安があるなら組み合わせを。
ご家族の状況から逆算した最適な組み合わせをご提案します。
親の認知症や将来の資産凍結に不安を感じているあなたへ
認知症によって判断能力が低下してしまうと、預金の引き出しや実家の売却、遺言書の作成などが一切できなくなってしまいます。家族信託や任意後見、遺言書といった対策は、親御さんがお元気で判断能力がある「今」しか始めることができません。
「実家の売却資金を介護費用に充てられるようにしておきたい」
「将来家族が困らないよう、今のうちに財産管理の仕組みを作っておきたい」
当事務所では、状況の整理から必要な対策の優先順位付けまで親身にお手伝いいたします。
手遅れになってしまう前に、ぜひ実務経験豊富な司法書士へご相談ください。
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作成日:2026年7月31日
執筆・監修:司法書士 名波直紀
名波司法書士事務所 代表
静岡県司法書士会所属・登録番号517
簡裁訴訟代理等関係業務認定番号108040
※本記事は、2026年7月28日現在の法令・公的機関の公表情報に基づいて作成しています。法令や制度は改正されることがありますので、実際の手続にあたっては最新情報をご確認ください。


