コラム

自筆証書遺言の書き方:無効にしないための必須要件5つと文例

自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば今日から作れる、最も手軽な遺言です。

しかしその手軽さの裏で、方式の不備による「全部無効」が最も起こりやすい遺言でもあります。

この記事では、無効にしないための必須要件5つを、文例とともに解説します。

 

必須要件1:財産目録以外は全文を自書する

本文はすべて手書きが原則です。

パソコン打ち・代筆・音声はすべて無効です(2026年7月時点)。

手が不自由な場合に他人が手を添えた遺言が争われた裁判例もあり、「自分の字で書き切れるか」は方式選びの分かれ目になります。

なお、2019年の法改正で財産目録だけはパソコン作成や通帳コピーの添付が認められました

詳しくは財産目録の作り方をご覧ください。

必須要件2:作成した日付を正確に書く

「令和8年7月19日」のように、特定の一日が分かるように書きます。

「令和8年7月吉日」は日付の記載を欠くものとして無効、というのが確立した判例です。

日付が重要なのは、複数の遺言があるとき「後の日付」が優先されるからです。

必須要件3:氏名を自書する

戸籍どおりのフルネームで書きます。

判例上は通称でも本人が特定できれば有効とされ得ますが、死後の手続き(登記・銀行)で余計な疑義を生まないため、戸籍の氏名で書くのが実務の鉄則です。

必須要件4:押印する

認印でも法律上は有効ですが、本人の意思を示す証拠力の点から実印を推奨します。

なお、デジタル遺言制度の導入に伴い自筆証書遺言の押印を廃止する改正案が国会に提出されていますが、施行前の現時点では押印は必須です。

必須要件5:訂正は法律どおりの方式で

書き損じの訂正には、訂正箇所の指示・変更した旨の付記・署名・訂正印という厳格な方式が定められており、方式を誤ると訂正が無効になります。

実務の結論はシンプルで、間違えたら最初から書き直すのが安全です。

文例:基本形

遺 言 書

第1条 遺言者は、遺言者の有する別紙目録第1記載の不動産を、
    妻 名波花子(昭和◯年◯月◯日生)に相続させる。
第2条 遺言者は、遺言者の有する別紙目録第2記載の預貯金を、
    長男 名波太郎(昭和◯年◯月◯日生)に相続させる。
第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、前記 名波花子を指定する。

令和8年7月19日
静岡県浜松市◯◯区◯◯町◯番地◯
遺言者 名波 一郎 ㊞

※「相続させる」と「遺贈する」は一文字違いで死後の登記手続きが変わります。使い分けはこちらの記事で必ずご確認ください。不動産の表示は住所ではなく登記事項証明書のとおりに書きます(不動産の書き方)。

 

書けたら「保管」と「内容チェック」を

様式が整っていても、

①自宅保管では紛失・発見されないリスクが残る

②内容が法的に機能するか(遺留分・不動産の特定・予備的条項)は誰もチェックしていない

という2つの穴が残ります。

①は法務局の保管制度(3,900円)で塞げます。

②は専門家の目を一度通すことをおすすめします。

 

まとめ

自筆証書遺言の生命線は「全文自書・日付・氏名・押印・訂正方式」の5要件です。書くこと自体は今日できます。

ただし、無効にしない・争いにしない遺言にするには、書いた後の保管と内容確認までがワンセットです。


作成日:2026年8月1日

執筆・監修:司法書士 名波直紀
名波司法書士事務所 代表
静岡県司法書士会所属・登録番号517
簡裁訴訟代理等関係業務認定番号108040

※本記事は、2026年8月1日現在の法令・公的機関の公表情報に基づいて作成しています。法令や制度は改正されることがありますので、実際の手続にあたっては最新情報をご確認ください。

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