自筆証書遺言を自分で作ってよい人・専門家に相談した方がよい人

自筆証書遺言を自分で作ってよい人・専門家に相談した方がよい人
自筆証書遺言は便利ですが、誰にでも向いているわけではありません
自筆証書遺言は、ご自身で作成できる遺言書です。
公正証書遺言と比べて費用を抑えやすく、思い立ったときに作成しやすいというメリットがあります。
また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、遺言書の紛失や改ざんを防ぎやすくなり、相続開始後の家庭裁判所での検認も不要になります。
そのため、
「まずは自分で遺言書を書いてみたい」
「できるだけ費用を抑えて準備したい」
「法務局に預ければ安心なのでは」
と考える方も増えています。
しかし、自筆証書遺言は、便利である一方、誰にでも向いているわけではありません。
家族関係や財産の内容によっては、自己流で作成すると、かえって相続発生後にご家族が困ってしまうことがあります。
そこでこの記事では、
自筆証書遺言を自分で作ってよい人
と
専門家に相談した方がよい人
の違いを整理します。
この記事のポイント
自筆証書遺言は、費用を抑えて作成できる便利な方法です。
ただし、形式を間違えると無効になる可能性があり、内容が不十分だと相続手続きで使いにくくなることがあります。
財産がシンプルで、家族関係に争いがなく、内容も明確な場合は、自分で作成できる可能性があります。
一方で、不動産がある、相続人同士の関係に不安がある、子どものいない夫婦、再婚家庭、遺留分が気になる、認知症対策も必要といった場合は、専門家への相談をおすすめします。
大切なのは、
高額なサービスか、安い自己流かの二択ではなく、自分の家族に必要な部分へ適切に専門家の関与を入れること
です。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分で作成する遺言書です。
原則として、遺言書の本文、日付、氏名は本人が自書し、押印する必要があります。
以前は財産目録も含めてすべて手書きする必要がありましたが、現在は財産目録については、パソコンで作成したものや、登記事項証明書・預貯金通帳のコピーなどを添付することができます。
ただし、自書によらない財産目録を添付する場合は、財産目録の各ページに遺言者本人の署名押印が必要です。
自筆証書遺言は、上手に活用すれば便利な方法です。
しかし、方式や内容を誤ると、せっかく作った遺言書が使いにくくなったり、場合によっては無効になったりすることがあります。
自筆証書遺言を自分で作ってよい人
まず、自筆証書遺言を自分で作成しやすい方の特徴を整理します。
1. 家族関係がシンプルな人
たとえば、相続人が配偶者と子どもだけで、家族関係に大きな不安がない場合です。
相続人同士の関係が良く、誰に何を渡すかについても大きな争いが想定されない場合は、自筆証書遺言を自分で作成できる可能性があります。
ただし、家族関係がシンプルに見えても、介護の負担や過去の贈与、不動産の承継などで感情的な問題がある場合は注意が必要です。
2. 財産の内容がシンプルな人
預貯金が中心で、不動産や複雑な金融商品が少ない場合です。
たとえば、
- 預貯金を配偶者に相続させる
- 預貯金を子どもたちに均等に分ける
- 特定の金融機関の預金を特定の人に渡す
といった比較的分かりやすい内容であれば、自分で作成しやすい場合があります。
ただし、金融機関名や支店名、口座の内容が変わることもあるため、書き方には注意が必要です。
3. 誰に何を渡すかが明確な人
遺言書で大切なのは、財産の行き先が明確であることです。
「すべての財産を妻に相続させる」
「別紙財産目録記載の預貯金を長女に相続させる」
「残りの財産を長男に相続させる」
このように、誰に何を渡すかがはっきりしている場合は、自筆証書遺言を作成しやすいといえます。
一方で、
「長男には多めに渡したい」
「次女にも配慮したい」
「実家は誰かに守ってほしい」
「介護してくれた子に報いたい」
といったお気持ちが複雑に絡む場合は、内容を整理するために専門家へ相談した方がよいことがあります。
4. 不動産がない、または不動産表示を正確に準備できる人
不動産がない場合、自筆証書遺言の作成は比較的シンプルになりやすいです。
一方、不動産がある場合でも、登記情報に基づいて正確な不動産表示を準備できるのであれば、自筆証書遺言を活用できる可能性があります。
財産目録は印刷して添付することもできますので、不動産表示を正確に整理した財産目録を作成できれば、手書きによる転記ミスを防ぎやすくなります。
ただし、不動産がある場合は、土地と建物、共有持分、私道、未登記建物などを見落としやすいため注意が必要です。
5. 形式面のルールを守れる人
自筆証書遺言では、形式面のルールがとても重要です。
たとえば、
- 本文を自書する
- 作成日付を具体的に書く
- 氏名を書く
- 押印する
- 財産目録を印刷する場合は各ページに署名押印する
- 財産目録は本文とは別紙にする
- 訂正方法に注意する
といった点です。
こうしたルールを正確に確認しながら作成できる方は、自筆証書遺言を自分で作成しやすいといえます。
自筆証書遺言でも、専門家に一部だけ相談する方法があります
自筆証書遺言を自分で作る場合でも、すべてを自己流で進める必要はありません。
たとえば、
- 不動産表示だけ専門家に確認してもらう
- 財産目録だけ専門家に整えてもらう
- 遺言書全体の方向性だけ相談する
- 法務局保管制度を使う前に注意点を確認する
- 認知症対策が必要かどうかだけ相談する
という方法もあります。
遺言書は、
「全部を専門家に依頼する」
または
「全部を自分で作る」
の二択ではありません。
必要な部分だけ専門家の力を借りることで、費用を抑えながら、失敗のリスクを減らすことができます。
専門家に相談した方がよい人
次に、自筆証書遺言を自己流で作るより、専門家に相談した方がよい方の特徴を整理します。
1. 不動産がある人
不動産がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。
不動産は、預貯金のように簡単に分けられるものではありません。
また、遺言書に書く場合も、住所ではなく登記情報に基づいて正確に表示する必要があります。
たとえば、
- 土地と建物が別々に登記されている
- 私道持分がある
- 共有持分がある
- 未登記建物がある
- 名義が古いままになっている
- 固定資産税課税明細書と登記情報が一致しない
といったことがあります。
不動産がある場合は、遺言書の書き方だけでなく、将来の相続登記や不動産管理まで考える必要があります。
2. 相続人同士の関係に不安がある人
相続人同士の関係に不安がある場合は、専門家に相談した方がよいです。
たとえば、
- 兄弟姉妹の仲が良くない
- 介護をした子と、していない子がいる
- 過去に多額の援助を受けた子がいる
- 特定の子だけに不動産を渡したい
- 連絡を取りにくい相続人がいる
このような場合、遺言書の一文が相続人の感情に大きく影響することがあります。
法律上は正しくても、家族関係に配慮しない遺言書では、かえって争いのきっかけになることもあります。
3. 子どものいない夫婦
子どものいない夫婦は、特に遺言書の必要性が高いケースです。
配偶者にすべてを残したいと思っていても、遺言書がない場合、親や兄弟姉妹、甥姪が相続人になることがあります。
その結果、残された配偶者が、義理の親族と遺産分割協議をしなければならない場合があります。
また、「妻にすべて相続させる」と書いていても、妻が先に亡くなっていた場合にどうするかまで考えていないと、想定外の相続になることがあります。
子どものいない夫婦は、専門家に相談して内容を慎重に設計することをおすすめします。
4. 再婚している人・前婚の子がいる人
再婚家庭では、相続関係が複雑になりやすいです。
現在の配偶者、前婚の子、現在の配偶者との子など、関係者が複数になる場合があります。
このような場合、誰にどの財産を渡すかだけでなく、遺留分、家族感情、住まいの確保などを考える必要があります。
自己流で遺言書を作ると、かえって相続人間の対立を招く可能性があります。
5. 特定の相続人に多く渡したい人
たとえば、
- 長男に自宅を渡したい
- 介護してくれた長女に多く渡したい
- 家業を継ぐ子に事業用財産を渡したい
- 同居している子に不動産を渡したい
という場合です。
特定の相続人に多く渡す内容にする場合は、他の相続人とのバランスや遺留分への配慮が必要になることがあります。
遺言書を作ることで問題が解決する場合もありますが、書き方によっては争いの火種になることもあります。
6. 遺留分が気になる人
遺留分とは、一定の相続人に認められている最低限の取り分です。
遺言書で特定の人に多く財産を渡す場合、他の相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
遺留分が問題になりそうな場合は、遺言書の内容だけでなく、生命保険の活用、付言事項、家族への説明、財産の分け方なども含めて考える必要があります。
7. 受け取る人が先に亡くなった場合を考えておきたい人
遺言書は、作成した時点の家族関係を前提にしがちです。
しかし、相続がいつ発生するかは分かりません。
遺言書で財産を受け取る予定の人が、遺言者より先に亡くなっていることもあります。
この場合、次に誰へ渡すのかを決めておかないと、その部分について遺言書どおりに実現できないことがあります。
いわゆる予備的な考え方が必要になる場合です。
ただし、これは文例をまねればよいものではありません。
家族関係や財産内容によって、誰を次の受け取り先にするかは慎重に考える必要があります。
8. 認知症対策も必要な人
遺言書は、亡くなった後の対策です。
認知症になった後の預貯金管理、不動産売却、介護費用の支払いなどには、遺言書だけでは対応できません。
親が認知症になった後に、
- 預貯金を引き出せない
- 実家を売却できない
- 介護費用を準備できない
- 空き家を管理できない
という問題が起こることがあります。
このような場合は、任意後見契約、財産管理契約、家族信託などを検討する必要がある場合があります。
遺言書と認知症対策は、セットで考えることが大切です。
自分で作る場合の最低限のチェックポイント
自筆証書遺言を自分で作成する場合は、少なくとも次の点を確認してください。
- 遺言書本文を本人が自書しているか
- 作成日付を具体的に書いているか
- 氏名を書いているか
- 押印しているか
- 財産目録を印刷する場合、各ページに署名押印しているか
- 不動産を住所だけで書いていないか
- 土地と建物を分けて確認しているか
- 共有持分や私道を見落としていないか
- 誰に何を渡すか明確になっているか
- 受け取る人が先に亡くなった場合を考えているか
- 遺言執行者を指定する必要がないか
- 認知症対策が別に必要ではないか
ひとつでも不安がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。
法務局に預けても、内容までは確認されません
法務局の自筆証書遺言書保管制度は、とても便利な制度です。
遺言書の紛失や改ざんを防ぎやすくなり、相続開始後の家庭裁判所の検認も不要になります。
しかし、法務局が確認してくれるのは、主に形式面です。
遺言書の内容がご家族の状況に合っているか、不動産の表示が正確か、遺留分への配慮が必要か、認知症対策まで十分か、といった点までは判断してくれません。
つまり、
保管してもらえること
と
安心して使える内容になっていること
は別問題です。
法務局の保管制度を使う場合でも、内容に不安がある場合は、事前に専門家へ相談することが大切です。
遺言書に使える不動産表示作成サービス
名波司法書士事務所では、自筆証書遺言や法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用したい方向けに、
遺言書に使える不動産表示作成サービス
をご用意しています。
当事務所が登記情報を確認したうえで、遺言書に使いやすい不動産表示データを作成し、メールで納品します。
財産目録として印刷・添付しやすい形でご利用いただけます。
サービス内容
- 土地の表示
- 建物の表示
- 共有持分がある場合の持分表示
- 複数不動産がある場合の一覧
- 財産目録として利用しやすい不動産表示データ
- 不動産表示に関する簡単な注意事項
料金
11,000円(税込)+実費
※基本料金には、土地・建物あわせて3件までの不動産表示作成を含みます。
※4件目以降や、私道、共有持分、未登記建物、名義不一致など複雑な事情がある場合は、追加料金が発生する場合があります。
個別相談で整理できること
遺言書全体や認知症対策まで含めて確認したい方には、個別相談をおすすめします。
個別相談では、たとえば次のようなことを整理できます。
- 自筆証書遺言でよいか、公正証書遺言がよいか
- 誰に何を相続させるべきか
- 不動産を共有にしてよいか
- 遺留分への配慮が必要か
- 遺言執行者を指定すべきか
- 予備的な条項を検討すべきか
- 認知症対策が必要か
- 任意後見契約、財産管理契約、家族信託のどれを検討すべきか
大切なのは、制度を先に決めることではありません。
まずは、ご家族の関係、財産の内容、将来の不安を整理することです。
まとめ
自筆証書遺言は、費用を抑えて作成できる便利な方法です。
家族関係がシンプルで、財産の内容も分かりやすく、誰に何を渡すかが明確な場合は、自分で作成できる可能性があります。
一方で、不動産がある、相続人同士の関係に不安がある、子どものいない夫婦、再婚家庭、遺留分が気になる、認知症対策も必要といった場合は、専門家に相談した方が安心です。
遺言書は、高額なサービスを選べば安心というものでも、安く自分で作ればよいというものでもありません。
大切なのは、
そのご家族に合った対策を、適切な費用で実現すること
です。
名波司法書士事務所では、自筆証書遺言を作成したい方にも、必要な部分だけ専門家が関与する方法をご提案しています。
不動産表示だけを整えたい方。
遺言書全体を確認したい方。
認知症対策まで含めて相談したい方。
ご自身の場合に何が必要か分からない方は、まずは一度ご相談ください。





