お互いに前婚の子どもがいる未入籍カップル。相続で何が起きる?

「もうこの年齢だから、今さら籍を入れなくてもいいよね」
長年一緒に暮らしているパートナー同士で、このように考えている方は少なくありません。
特に50代、60代以降で、お互いに一度結婚を経験し、それぞれに前の結婚で生まれた子どもがいる場合、「子どもたちとの関係を考えると、あえて再婚しない方がいい」「今の関係のままで十分」という選択をされることもあります。
もちろん、入籍するかどうかは、お二人の価値観で決めることです。
しかし、「入籍しない」という選択と「何も相続対策をしない」ということは、まったく別の問題です。
今回は、お互いに前婚の子どもがいる未入籍カップルに、どのような相続問題が起こり得るのかを考えてみます。
20年一緒に暮らしていても、相続人にはならない
例えば、Aさん(65歳)とBさん(62歳)がいたとします。
二人とも離婚経験があり、Aさんには前妻との間に子どもが2人、Bさんにも前夫との間に子どもがいます。
二人は15年以上一緒に暮らしていますが、婚姻届は提出していません。住んでいる自宅はAさん名義です。
では、Aさんが遺言を作らないまま亡くなったら、自宅はBさんが相続できるでしょうか。
原則として、答えは「できません」。
民法上の配偶者として相続人になるには法律上の婚姻関係が必要であり、内縁関係にある方は法定相続人には含まれません。
この例では、Aさんの子ども2人が相続人になります。
一番深刻なのは「今住んでいる家」の問題
自宅がAさんの単独名義なら、Aさんが亡くなると原則としてAさんの相続財産となり、Aさんの子どもたちが相続します。
Bさんが「私はこの家に15年以上住んできました」と思っていても、相続人という立場でその家を取得できるわけではありません。
実際に住み続けられるかは権利関係や相続人との話し合いによって異なりますが、長年一緒に住んでいるから当然に住み続けられる、とは限りません。
Aさん名義の預貯金も同様で、Bさんが生活を共にしていても当然に相続できるわけではありません。
「遺言」がパートナーを守る大きな手段になる
Aさんが「自宅をBさんに遺贈する」「預貯金のうち○○万円をBさんに遺贈する」などと遺言しておけば、法定相続人ではないBさんにも財産を残せます。
法定相続人ではない人に財産を残す場合、「相続させる」ではなく「遺贈する」という形で設計します。
未入籍パートナーにとって、遺言は非常に重要です。
関連記事
相続人以外にも遺したい(世話になった嫁・内縁・孫):遺贈の書き方と注意点
ただし、「全部パートナーへ」で終わらない場合もある
もう一つ考えなければならないのが、子どもの遺留分です。
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障される最低限の取り分です。
Aさんの相続人が子ども2人だけで「全財産をBさんに遺贈する」という遺言を作った場合、単純化すると、それぞれの子どもには遺産全体の4分の1ずつの遺留分が生じる可能性があります。
遺留分を侵害する遺言が直ちに無効になるわけではありませんが、侵害された側から金銭請求を受ける可能性があります。
「パートナーに財産を残したい」という気持ちだけでなく、「子どもたちとの関係をどうするか」まで考えて設計する必要があります。
関連記事
遺言で「特定の人に多く残したい」と考えたときに。遺留分を事前に確認する大切さ
遺留分に配慮した遺言書の書き方:遺留分侵害額請求を防ぐ現実的な方法
「パートナー」か「子ども」か、二者択一にしない
次のような方法を組み合わせることで、お互いの生活と家族関係の両方に配慮できる場合があります。
- パートナーには今住んでいる自宅を残す
- 子どもたちには預貯金など別の財産を残す
- 生命保険を利用して調整する
- 遺留分を考慮して財産配分を設計する
相続は財産の問題であると同時に、人間関係の問題でもあります。
「籍を入れる」という方法もある
法律上の婚姻をすれば、パートナーは配偶者として法定相続人になります。
亡くなった方に配偶者と子どもがいる場合、原則として配偶者の法定相続分は2分の1、子ども全体で2分の1です。
どちらが正しいという問題ではありません。
大切なのは、入籍しない場合に生じる法律上の空白を、別の仕組みで埋めておくことです。
「亡くなった後」だけ考えても足りない
遺言は亡くなった後の対策ですが、生きている間の問題をすべて解決するものではありません。
Aさんが認知症になり財産管理や契約ができなくなっても、Bさんは長年のパートナーというだけで、当然に銀行口座を管理したり、不動産を処分したり、法律行為を代理したりはできません。
そこで、次の仕組みを組み合わせて考えます。
- 財産管理委任契約
- 任意後見契約
- 遺言
- 必要に応じた生命保険等の活用
当事務所では、認知症対策と相続対策を一緒に考える「W対策」として整理しています。
特に未入籍パートナーは「配偶者だから何とかなる」という前提がないため、元気なうちの準備が重要です。
関連記事
認知症対策と相続対策は、別々に考えない。家族を困らせないための「W対策」とは
家族信託と遺言はどっちが必要?認知症対策との役割分担を司法書士が整理
税金も法律上の配偶者とは違う
内縁のパートナーが遺言によって財産を受け取った場合、一定の場合には相続税の対象になります。
被相続人の一親等の血族や法律上の配偶者以外の人が財産を取得した場合、原則として相続税額の2割加算の対象です。
また、法律上の配偶者に認められる「配偶者の税額軽減」は、婚姻届を提出していない内縁関係の方には適用されません。
財産の規模が大きい場合は、司法書士だけでなく税理士とも連携して検討することが大切です。
未入籍パートナーにまず確認してほしい4つのこと
- 今住んでいる家は誰の名義か
- どちらかが亡くなったとき、パートナーに何を残したいか
- それぞれの子どもたちに、どのように財産を残したいか
- どちらかが認知症になったとき、誰に財産管理を任せたいか
この4つの答えがはっきりすると、必要な対策も見えてきます。
「今の関係で十分」と思っている二人にこそ、準備を
未入籍という生き方には、さまざまな理由があります。
どの選択も、その方たちの人生のあり方です。ただ、法律は気持ちや生活の実態まで自動的にくみ取ってくれるわけではありません。
「私たちは夫婦同然だから大丈夫」ではなく、「私たちはこの形を選んだからこそ、元気なうちに準備しておこう」と考えることが大切です。
名波司法書士事務所では、現在のパートナーとの関係、前婚のお子さんとの関係、住まい、財産、将来の認知症リスクまで含めて整理しながら、相続対策を一緒に考えています。
「籍は入れていないけれど、この人をきちんと守りたい」と思ったときが、準備を始めるタイミングです。
ご相談のお申し込み・お問い合わせ
作成日:2026年9月8日
執筆・監修:司法書士 名波直紀
名波司法書士事務所 代表
静岡県司法書士会所属・登録番号517
簡裁訴訟代理等関係業務認定番号108040
※本記事は、2026年9月8日現在の法令・公的機関の公表情報に基づいて作成しています。法令や制度は改正されることがありますので、実際の手続にあたっては最新情報をご確認ください。


