コラム

遺言書の日付・署名・押印のルール:「吉日」がなぜ無効になるのか

自筆証書遺言の形式要件のうち、本文の自書と並んで落とし穴になりやすいのが「日付・署名・押印」です。

一見些細なこの3点で、遺言全体が無効になった裁判例が積み重なっています。

 

日付:暦の上の「特定の一日」が分かるように

日付は「令和8年7月19日」のように年月日で書きます。

「令和8年7月吉日」は日付の記載を欠くものとして無効——これは最高裁判例で確立したルールです。

縁起を担いだ一語が遺言全体を無効にする、最も有名な落とし穴です。

なぜ日付がそこまで重要なのか。理由は2つあります。

第一に、遺言が複数見つかったとき日付の後のものが優先されるため、前後関係の判定に日付が不可欠だからです。

第二に、作成時点の遺言能力(認知症の進行度など)を判断する基準時になるからです。

なお「私の70歳の誕生日」のように暦日が特定できる記載は有効とされ得ますが、あえて危険な書き方を選ぶ理由はありません。

素直に年月日で書いてください。

 

署名:戸籍のフルネームで

氏名は自書(手書き)が必要です。

判例上は雅号・通称でも本人の同一性が示せれば有効とされる余地がありますが、死後に登記や銀行手続きでこの遺言を使うことを考えると、戸籍どおりのフルネームで書くのが唯一の実務解です。

夫婦で同じ姓のため紛らわしい場合も、氏名+生年月日の記載で疑義を消せます。

 

押印:認印でも有効、しかし実印を推奨

押印は法律上、認印でも拇印でも有効とされています(拇印を有効とした最高裁判例があります)。

しかし実務では実印での押印を強くおすすめします。

理由は、遺言の真正(本人が押したこと)が争われたとき、印鑑証明書と照合できる実印は証拠力が段違いだからです。

シャチハタ(浸透印)は変形しやすく避けるべきです。

【法改正の動き】押印は廃止される方向です

デジタル遺言制度の導入とあわせて、自筆証書遺言の押印を不要とする民法改正案が示されています(2026年7月時点・未施行)。

ただし施行前に作る遺言には当然押印が必要ですし、施行後も「押してあるから無効」になるわけではありません。

読者の行動としては、現時点では今までどおり押印する、これだけ覚えておけば足ります。

最新状況はデジタル遺言の記事で更新しています。

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封筒は必須ではない、しかし

自筆証書遺言は封筒に入れる法的義務はありません。

ただし自宅保管なら改ざん・汚損防止のため封入・封印が望ましいでしょう。

注意点として、封印のある遺言書は家庭裁判所で開封する必要があり、勝手に開けると過料の対象になります(検認の記事)。

法務局の保管制度を使う場合は逆に封をせずに持ち込みます(保管制度の様式ルール)。

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まとめ

自筆証書遺言の日付・署名・押印は、どれかひとつでも欠けると遺言全体が無効になりかねない非常に重要な要素です。

  • 日付: 「吉日」は絶対NG。必ず「〇年〇月〇日」と暦の上の特定の年月日を書く

  • 署名: 死後の不動産登記や銀行手続きで困らないよう、戸籍通りのフルネームで手書きする

  • 押印: 認印や拇印も法的には有効だが、本人の作成証明として最も強い「実印」を押す

形式要件は「知ってさえいれば確実に防げるポイント」ばかりです。

当事務所では、ご自身で書かれた遺言書の形式チェックからサポートしておりますので、不安な点がある方はどうぞお気軽にご相談ください。

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作成日:2026年8月2日

執筆・監修:司法書士 名波直紀
名波司法書士事務所 代表
静岡県司法書士会所属・登録番号517
簡裁訴訟代理等関係業務認定番号108040

※本記事は、2026年8月2日現在の法令・公的機関の公表情報に基づいて作成しています。法令や制度は改正されることがありますので、実際の手続にあたっては最新情報をご確認ください。

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